【Think Athleteインタビュー】ライフセーバー 三井結里花選手 Vol.4「練習を絶対無駄にしない~母の強い想いが生んだ金メダル~」

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目標に向かい進み続けるために、コンディショニング作り、そしてアスリート人生を設計できる方を、Think Athleteと定義。ベネクスとしては、リカバリー環境のサポートにより、悔いのないアスリート生活、人生のサポートすることを目指しています。

今回はThink Athleteの第四弾として、ライフセーバー三井結里花選手に取材をさせていただきました。

前回までの記事はこちら→【Think Athleteインタビュー】ライフセーバー 三井結里花選手 Vol.3「ママだからこその発想~プラス思考の移動時間~」 | 休養・リカバリーウェアのVENEX(ベネクス) (venex-j.co.jp)

RLスタッフ:ママアスリートとしてのリカバリーについてお伺いさせてください。産前と産後で体の変化や、それによるコンディション、パフォーマンスの違いがあったんじゃないかなと思うのですが、そのあたりはいかがでしたか。

三井選手:産後は自分で気づけないうちに疲れが溜まりがちになりますね。例えば、授乳は普段の練習と比べたらすごく辛いわけではないのですが、授乳の姿勢で疲れる部分、僧帽筋や背中などに「疲労が溜まってるね」とトレーナーさんに言われて、初めて疲労を自覚することがありました。確かに以前よりは、ストレッチする時間も取りにくくなったことも原因かなと感じます。

RLスタッフ:その疲労がパフォーマンスに影響することはありますか。

三井選手:ありますね。例えば、泳ぐ時に稼働範囲が狭くなってしまったり。あと、私は帝王切開で出産したのですが、表面の傷がこすれて痛いのは我慢できても、ぐっと力を入れる時に、中側の方に痛みを感じるというか、どうしてもその部分の痛みがなかなか取れないのは気になりました。

RLスタッフ:睡眠についてはいかがでしたか。

三井選手:授乳で夜まとまって寝られなかったこともあり、一日の疲労を取り切れずに次の日にどんどん溜まっていくのが当たり前になっています。産前は、寝る前に自分で取れる疲労は取って寝ないと、気持ち悪くて眠りに入れないので必ずストレッチをしていました。産後は自分がストレッチする時間なんて全くなくて、出産直後は3時間ごとに起きて授乳して、疲れて抱っこしながら寝てしまうぐらいでした。

RLスタッフ:出産を期に今までの当たり前が変わってしまいますね。今でも大変な状態は続いていますか。ポジティブな三井選手ならではの解消法を見つけて対応できているのでしょうか。

三井選手:だいぶ落ち着きました。それと、今まではまとまった時間が取れなきゃダメって思い込んでいたのですが、本当に1分でもいいから、隙間時間にストレッチをやるようにしたら、少し解消されたっていうのはありますね。家事の間に少しここを伸ばしておくとか、外出時、子どもが機嫌いい隙にぐーっと伸ばしておくとか。本当にそういう積み重ねが大きいなって思います。

RLスタッフ:競技への向き合い方や思いに変化はありましたか。

三井選手:そうですね。変わらない思いもありますが、大好きな宝物である子どもと離れて費やした練習の時間を無駄にしたくない、絶対に結果に繋げてやりたいと強く思うようになりました。

RLスタッフ:競技への復帰は出産前から決めていたのですか。

三井選手:出産前から産後に復帰して世界大会に行くと決めていたのですが、いざ生まれてきたら、可愛くて離れたくなくて、誰にも預けたくないと思いました。だから産後当初は子どもとの時間を割いてまで練習に充てるべきか、そこまでして競技を続けるのかすごく悩みました。中途半端な気持ちじゃ世界は目指せないですし。

RLスタッフ:それでも競技に復帰することを決められたのですね。

三井選手:娘とずっと一緒にいることがこの子のためになるわけじゃない、と気づいたんです。それに何か目標に向かって突き進んでる方が自分らしいし、その上でこの子の母でいたい。ですので、出産前よりも、自分がなぜこの競技をやるのか、競技をやった後どうしたいかを改めて考え、明確にできたこと、競技への向き合い方は大きな変化だと思います。

RLスタッフ:なぜこの競技をやるのか明確になったというのは、最初におっしゃっていた、メダルの先にまだ目指すものがある、というお話につながるのでしょうか。

三井選手:もちろん自分の競技結果をメダルに繋げ、その先にあるライフセーバーが必要とされない海を目指したい、というのは変わらないです。コアな部分は変わらないけど、その気持ちがさらに強く、自分が進むべき道もさらに明確になったって感じですね。

RLスタッフ:金メダルは強いお気持ちの結果だったんだと、改めて思います。三井選手はリカバリーの意識を最初からお持ちでしたし、産後もポジティブ思考や、隙間時間を無駄にしない工夫をされていましたが、出産を経てリカバリーの意識に変化はありましたか。

三井選手:そうですね、すごくオンオフが上手になりました。競技を続けることは、子ども自身はもちろん、子どもの面倒を見てくれたり、支えてくれているみんなの時間を奪ってまでやっていることなので、練習に入るとウォーミングアップからダウンの最後の1メートルまで集中して絶対に無駄にしない、と思うようになりました。

RLスタッフ:休みたいと思っても充分できない状況だからこそ、取れる時のオフはなおさら意識することを徹底されているのですね。

三井選手:そうですね。気持ちの面でもよりはっきり切替ができるようになった気はします。出産前まではきっと余裕があったんでしょうね。以前は家事をしながら競技について考える時間がありました。子どもが生まれてからは、練習が終わった瞬間から、競技を考える時間は全くありませんから。

RLスタッフ:練習も生活も目の前のことに集中して全力投球という感じなんですかね。

三井選手:そうですね。今は家に帰ったら子どもや家族との時間に精一杯気持ちを使うようなところがありますね。そして休める時は休むように意識しています。

Profile

◇ライフセーバー 三井結里花選手

199237日生まれ。日本大学入学後、ライフセービングを始める。ライフセーバー資格取得後、千葉県の九十九里蓮沼海岸で監視活動を経験。ライフセービングスポーツでは、2010年より強化指定選手。2019年に全日本ライフセービング選手権で9連覇。2022年11月に出産後、わずか半年で世界大会への出場権を獲得し、10月開催の世界選手権パドルボード競技にて金メダルを獲得。2023年も再び世界選手権に向けて日々練習を重ね、将来「ライフセーバーが必要とされない海」の実現を目指して活動中。

2016年: ライフセービング世界選手権オーシャンウーマン 5位入賞
2019年: 全日本選手権200mスーパーライフセーバー 9連覇
2022年: ISA World SUP and Paddleboard Championshipプローンディスタンスレース(パドルボード) 金メダル

 ※オーシャンウーマンとは:スイム・ボード・スキー・ランの4種目を1名で行います。レース前に実施される抽選で競技順が決定し、その順番によって展開が大きく変わります。各種目の技術と4種目をやりきる体力、そして状況判断力と、総合力が問われるライフセービングスポーツの競技です。

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