【専門家インタビュー】WINフロンティア株式会社 駒澤氏 Vol.1「なぜ、自律神経に注目が集まるのか?自律神経とパフォーマンスの関係について」

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アスリートのパフォーマンスの発揮には、自律神経の働きが深く関係していると言われています。

今回は、ウェアラブルセンサを用いた自律神経等の効果測定及び生体ビッグデータ解析事業を行うWINフロンティア株式会社の駒澤真人さんより、アスリートと自律神経の関係についてお聞きしました。

RLスタッフ:
アスリートにとって自律神経がどれぐらい大切なのか、自律神経とパフォーマンスの関係について、お伺いしたいと思っています。まずは、自律神経というものについて教えてください。

駒澤氏:
自律神経は循環、呼吸、消化、発汗・体温調節や代謝といった様々な生体機能を制御しており、「交感神経」と「副交感神経」に分かれています。交感神経は活動モードで、緊張、興奮した時に働きます。一方、副交感神経は休息、回復モードで、リラックスしている時に働きます。

もう一つ、「トータルパワー」というものがあります。これは数値的には交感神経と副交感神経を合わせた、自律神経の全体的なパワーのことです。トータルパワーは疲労と相関しており、高いほど元気な状態、低いと疲れている状態といえます。トータルパワーがベースとして高い時は、パフォーマンスが発揮できる状態といえます。さらに、パワーが高い状態かつ交感神経と副交感神経のバランスが取れていると、よりパフォーマンスが発揮しやすい自律神経の状態であるといえます。

RLスタッフ:
パフォーマンス発揮のために、トータルパワー、そして自律神経のバランスが重要なのですね。

アスリートの方は、試合中や練習中の「パフォーマンスを上げる」というシーンと、その前後のシーンがあると思います。睡眠に関する部分は副交感神経優位の状態が良いかと思うのですが、パフォーマンスをピークとして、その前後はどのような自律神経の状態が理想なのでしょうか。

駒澤氏:
これは人によっても異なり、様々な事例があります。例えば、昔あるゴルフ選手のデータを取らせていただいた時、その選手はプレイしていない平常時は、ものすごく副交感神経優位なタイプでした。しかし、試合中はギアを上げて、ぐっと交感神経を上げて、自律神経のバランスが良くなり、パフォーマンスが高くなっていたのです。そういう意味で言うと「平常時にどちらが優位なタイプか」ということはポイントの一つであると言えます。

RLスタッフ:なるほど。

駒澤氏:
その選手の場合は副交感神経優位なので、試合中は交感神経を上げることでバランスをとる。普段から交感神経優位の人は、逆に試合中は落ち着いてリラックスして副交感神経を上げていくことでバランスを取るパターンとで、大きく2タイプがあるかなと思いますね。

RLスタッフ:
普段、交感神経が優位という人は多いのでしょうか?

駒澤氏:
アスリートの方は少ないですね。今年の春、ある野球チームのキャンプで一軍選手のデータを取ったのですが、副交感神経優位の方が多かったです。

RLスタッフ:
意外です、副交感神経優位なのですね。

駒澤氏:
一方、我々のような一般のビジネスパーソンのデータを取ると、まるっきり逆で多くの方が交感神経優位のタイプです。まだそこまでエビデンスが多いわけではないですが、明らかに母集団の傾向が違うなという感覚があります。

RLスタッフ:
そんな違いがあるんですね。

駒澤氏:
アスリートの方に関して言うと、一流の選手であるほど、普段から副交感神経が優位な傾向があります。特に副交感神経が高かったのが、ある野球の監督さんですね。その方は何回測っても副交感神経優位で、トータルパワーも非常に高かったのです。その時はキャンプ中での計測だったのですが、若手の選手は張り切りすぎているのか交感神経優位な人が比較的多くて、トータルパワーも低い人が多かったです。

逆にベテラン選手とか、一軍である程度ペースをつかめている選手は比較的副交感神経が高くて、トータルパワーも高かったのです。恐らく、ベテラン選手は自分のトレーニングの負荷などを上手にコントロールしていると思いますね。そういった、興味深い傾向がみられました。

RLスタッフ:
次に、クールダウンについてお伺いしたいです。一般的に言うと、代謝を上げるためのリカバリーランや、ストレッチなどがあったりすると思いますが、自律神経はどのような状態が良いのでしょうか?

駒澤氏:
そうですね。試合や練習後に副交感神経を上げて、身体を休息モードに切り替えることが大事かと思います。交感神経が上がったままだと夜中寝付けないとか、睡眠の質に影響が出たりしますよね。あとは怪我ですね。交感神経が高いままだと血管が収縮している状態なので、血流の流れが悪くなり、それに伴い免疫が落ちたり、怪我につながったりといったリスクが出てくると思いますね。

RLスタッフ:
それ以外にパフォーマンスに関係することはありますか?

駒澤氏:
最近多いのは、スマホの使い方ですね。近年は「タイパ」という言葉も流行り、時間を効率よく節約する為に、動画を倍速視聴する方も多いと思います。過去に行った実験では、同じ動画でも通常再生時に比べて倍速視聴時では、情報量の過多で脳疲労などのストレスや緊張により、交感神経がより高まる傾向がみられました。特に睡眠前に交感神経が活性化すると寝つきが悪くなり睡眠の質が低下しますので、気をつける必要がありますね。
食事などの生活習慣は管理できていても、スマホの見過ぎとかやりすぎで自律神経の調子が悪くなるということもあるかもしれないです。現代ならではの話題ですね。

Profile

【駒澤 真人 プロフィール】  

WINフロンティア株式会社 取締役
順天堂大学 大学院医学研究科 客員准教授
芝浦工業大学 大学院理工学研究科 客員准教授
東京理科大学理工学部卒、東京工業大学大学院総合理工学研究科卒、神戸大学大学院システム情報学研究科博士課程修了(博士(工学))

IT企業にて、企業、官公庁向けシステムの開発事業に携わった後、WINフロンティア株式会社に創業時から参画。ウェアラブル技術を活用し人間情報をセンシング、評価分析、システム化して実応用まで繋げる研究で工学博士号を取得。160万以上ダウンロードされているストレスチェックアプリ「COCOLOLO」などを世に送り出した。企業、大学、自治体、医療機関などと連携し、商品・サービスの快適性を評価する感性工学プロジェクトや、人間の健康やクリエイティビティをサポートするプロジェクトに百件以上携わる。医工連携のプロジェクトにも数多く携わり、工学技術を医療現場へ応用することに注力している。

[主な著書]

『ストレス・疲労のセンシングとその評価技術』(第7  指先の指尖脈波を用いたココロのバランスをチェックするシステムの開発、技術情報協会、2019年)

『人間情報学 快適を科学する』(第6章 ウェアラブル技術を活用した心拍変動による感情解析と実用化、近代科学社、2022年)

WINフロンティア株式会社のご紹介】

https://www.winfrontier.com/

自律神経を中心とした人間情報センシング技術により、商品・サービスなどの効果検証やヘルスケアアプリの開発、生体情報を活用した新規事業のコンサルティングまで幅広くサポート。また、AI時代の到来で人間が人間らしくあるために、クリエイティビティに関する研究などもおこなっており、人間情報センシングの技術と認知科学・生理心理学の知見を活かして、クリエイティビティとウェルビーイングの向上に貢献する会社。

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