【ベネクスのモノづくりインタビュー】神戸ニット社長 神戸氏、顧問 吉村氏

スペシャル / ベネクス

想定外の連続だったPHT繊維を使った生地作りの先に今がある。繊維業界のプロフェッショナルに支えられて生まれるリカバリーウェア。

ベネクスのリカバリーウェアは特許取得の独自開発素材の「DPV576」を含有した特殊繊維「PHT繊維」づくりからはじまります。次いで、PHT繊維を編んだオリジナルの生地づくり、その生地を染色し、縫製――そうしてようやく商品が完成します。

川上から川下までバトンをつなぎながらすべてを一気通貫で行うベネクスのモノづくり。これまでなかった「リカバリー」という価値を築いてきた私たちのパイオニア精神は⽣地開発や商品づくりにも息づいています。

今回はベネクスの長い製造工程のなかでも、PHT繊維を使った生地作りを創業当初から担ってくださっている、「神戸ニット」の神戸社長と繊維業界64年のプロフェッショナルである吉村さんにお話をお伺いしました。創業時からものづくりを担当するベネクスの乾とともにこれまでの歩みを紐解いています。ぜひご覧ください。

RLスタッフ:私自身は製造の現場に来たのが初めてなので、とてもワクワクしています。創業メンバーから、PHT繊維を製造する工程や、それを使った編立の工程で、鉱物が入ったベネクスのPHT繊維が機械を傷つけることや、糸の扱いが難しく、苦労が多いと聞いていました。まずは、神戸ニットさんとの出会いをお聞かせいただけますか。

ベネクス 乾:当時は、やっとPHT繊維が完成して、次のステップとして、生地を作っていただける先を見つけなければという状況でした。しかも、世の中に他に例がない何やらややこしい糸で、依頼の量も少ない。となると、どこも門前払いで、やっていただけるところが本当に見つからなかったんです。たくさんの工場に当たってなんとか神戸ニットさんにたどり着いて、最初にお取組みしてくださったんです。

吉村さん:初めに社長の中村さんと乾さんにお会いして「リカバリーウェア」を作りたいというお話をお聞きしました。これまでにも鉱物練込みの素材は有りましたが、オリジナルの素材でどんな特性なのか全く未知の素材であり、着るものでリカバリーするというこれまでにないお話をお聞きし面白いと思ったんですよね。

神戸社長:私自身も吉村さんからお話を聞いて、やってみようと思いました。スタートしてみると、難しさもありましたけど(笑)

RLスタッフ:当時はリカバリーウェアという構想はあるけれど、現物はない状況で商品になるかもわからないなかでも未来を感じていただいたということですね。今のベネクスがあるのはこうして一緒に歩んでくださる皆様のおかげですね。具体的にどのような点が難しかったのでしょうか。

神戸社長:PHT繊維はとても柔らかくて優しい糸ですが、目に見えないナノサイズの鉱物が入っていて、顕微鏡で見ると鉱物のトゲが出ています。手で触れてもわからない綺麗な糸なんですけど、機械に通すと擦れることによって、機械や針を削ってしまうんです。

RLスタッフ:普通は糸を作るときに、異物を排除しようとするところに、あえて異物を入れていますもんね。

神戸社長:通常、針は一年くらいで交換するのですが、PHT繊維の場合は約1か月から2か月で交換します。

新品の針

摩耗して末期の針

針折れ

左から新品→摩耗末期→針折れ

RLスタッフ:ものすごいお手間をおかけして作っていただいているのですね。他にも普通の糸と異なる点はありますか。

神戸社長:通常の糸を編み立てる場合と異なり、これまででは想像できない形で針が崩れて、最後は針がぽんっと折れてしまうことがあったり、交換する手間が通常より多いという点はありますね。

RLスタッフ:そうなると、通常であれば頼まれてもあまりやりたくないですよね。

神戸社長:常に気をつけていないと傷がついた針が他に悪さをしてしまうなど、苦労はいろいろありますし、やりたがられないとは思います。ただ最初にベネクスさんからお話をいただいた時に、まさかこのようなことが起こる糸だとは知らなかったんです(笑)

ベネクス乾:私たちも初めての取り組みなので、まずはやってみなければわからないという感じでした。そのような環境でお取組みし続けていただけたことで、今があるんですよね。

神戸社長:PHT繊維も最初の頃は品質にバラつきがあって、編んでいく中でマネジメントしながら調整し続けてきました。組織をきれいに作ること自体もかなり難しく、色々な試行錯誤があって、だんだん良くなっていった感じですね。もう始めてから15年近くになりますので。

RLスタッフ:ベネクス リカバリーウェアの製造の裏にこんなにもご苦労があったことを知りませんでした。

神戸社長:初めの頃は、編んでみて、確認のために2週間ストップさせるなど、一回一回慎重に進めていました。糸が針を削ってしまうという物理的な問題よりも、ベネクスさんの目指す商品作りの意識が高いことが、僕らにはすごくプレッシャーだったんです。

RLスタッフ:そんなふうに大切に思ってくださっていることをお伺いすると、感激しますし、このようなものづくりの支えがあることに感謝の気持ちでいっぱいです。

神戸社長:委託されて行っているので、貴重なPHT繊維をダメにしたら大きな損害になってしまいます。だから無駄にはできないという気持ちが勝っていましたね。

ベネクス 乾:現在、編立工場さんは他にもいくつかありますが、右も左もわからなかったスタート時、最初に一緒にチャレンジしてくださったのが神戸ニットさんと吉村さんでした。ワンロットの依頼から、だんだん量も増えていくなかで、量を多く編むと、編み機の針が削れることがわかったり...。じゃあそれをどうやっていくのがよいかなどの解決策も、一緒に考えて取り組んでいただいてきたんです。

神戸社長:今編んでいるこちらの機械はあえてゆっくりしたスピードで編み立てています。針の状況をみながら調整して、トラブルが発生しないような工夫や方法もノウハウの蓄積ができていきています。

吉村さん:ベネクスさんの商品はリラックス時に着用するものなので、着心地を求めますよね。神戸ニットでは丸編みで行っているのですが、それもセカンドスキンのような柔らかな風合いに一役買っており、リカバリーウェアとの相性が良いと思います。神戸ニットのようなベア天のニットを編む会社はもう日本では数社しかないです。

神戸さん:商品になるかわからないところからスタートし、紆余曲折いろいろなことがありましたが、今となっては取組みができて良かったなと思っています。機能糸を使った新しい商品を届けるということの一端を担えていること、他ではできないものを何とかモノにすることができた面白さがありました。日本の繊維産業としても、技術に加えこのような高付加価値な商品づくりを行うことで、海外にも勝負していけると思っています。

吉村さん:乗りかかった船にはとことんつきあう。運命共同体です(笑)快適な暮らしには、衣類が欠かせません。リカバリーにつながる商品が日本の繊維産業から生まれたことは良かったと思います。

ベネクス乾:よいものづくりは、一朝一夕にはできません。常に改善を重ね、ひとつずつ丁寧に問題解決に取り組むことでお客様に喜んでいただける商品へと進化していきます。一方で、作り手の私たちは常に「もっとよくできないか?」を目指すため、「これで完璧!」という状態にならないことが、苦悩でもあり面白さでもあります。私たちは永久に「もっともっとよい商品づくり」を探求していきます。

Profile

神戸 美典

神戸ニット株式会社 代表取締役

吉村 隆

神戸ニット株式会社 顧問
繊維業界一筋64年のプロフェッショナル

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