【専門家インタビュー】理化学研究所生命機能科学研究センター 渡辺恭良先生 Vol.2 「長距離移動時の疲労のメカニズム」

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今回はべネクスがより疲労やリカバリーの研究を行うために、理化学研究所生命機能科学研究センター チームリーダーの渡辺恭良先生にべネクス最高技術アドバイザーに就任いただいたことを記念して、渡辺先生にリカバリーウェアの今後の可能性などをお聞きしました。

Vol.1はこちら→「最高技術アドバイザー就任に際して、べネクスへの期待」

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長距離移動(飛行機、バス、新幹線など)での疲労のメカニズム

◇移動時の疲れの要素には2つあり、同じ姿勢で居るから疲れるということと、変化や刺激が少ないことで飽きてきて疲れることがある。

◇身体を使う疲労とは、かなりのスピードで動く(揺れる)中での姿勢保持、身体を動かせないことなどによる、血流のうっ滞や筋肉の拘縮を生じて、疲労の原因である生体酸化や局所炎症が起る。物質代謝も遅延し、不要な物質や毒性のある物質を代謝・排泄できないことによる。

◇疲労は心身を使うことだけでなく、精神的に飽きることでも起きる。

◇飛行機の移動は空気質や気圧環境が大きく変化することで、身体が乾燥している状態(脱水に近い状態)になることもエコノミークラス症候群の原因の1つ。

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RLスタッフ:今回は、長距離移動の疲労のメカニズムを、先生に伺っていきたいと思います。基礎的なところからお聞かせください。

渡辺先生:1つ目は、特にエコノミークラス症候群の話ですが、長時間移動の際に狭いスペースに閉じ込められて、リラックスできない姿勢、同じ姿勢を続けることによる血流のうっ滞や筋肉の拘縮で、疲労の原因である生体酸化が進んで細胞の障害が起こる(一種の炎症状態でもある)。また、物質代謝も遅延して、不要な物質や毒性のある物質を代謝・排泄できないことが問題になります。

RLスタッフ:身体を動かせないことによる、血流や代謝・排泄などの問題ですね。

渡辺先生:そこは、みなさんもかなり理解されているところだと思いますが、もう1つは、長時間同じ姿勢をとることが意外に筋力など、色々な身体の機能を使うということです。活動するエネルギー程ではありませんが、結構エネルギーがいることなんですね。

RLスタッフ:姿勢を維持することでエネルギーがいるのは、意識していませんでした。

渡辺先生:特に新幹線などはかなりのスピードで走っています。最近は安定性のある車両もあると思いますが、それでも揺れますし、高速道路を車やバスで走っていても結構揺れますので、そういう中での姿勢保持は、かなりの体力を使っているんです。運転しているだけ、ドライブしているだけ、乗り物に乗っているだけで、何でお腹が減ったのかな、という不思議な時ってありますよね。

RLスタッフ:交通インフラが発展したための、新しい疲労の要因ですね。それ以外にエコノミークラス症候群による疲労の要因はありますか。

渡辺先生:この名前がついたのは長距離のフライト、もっといえば宇宙旅行も含めてですが、空気や気圧環境が大きく変化することで、身体が乾燥している状態になることもエコノミークラス症候群の要因の1つだと思います。通常我々が生活している場所と違って気圧が低いので水分の蒸散量が違い、簡単に脱水になりやすいということです。空気圧が大きく変わる状況というのは、陸上の交通機関ではあまり体験しませんよね。そういうところで、意外に発汗、水分の蒸散が進むということとも疲労の要因ですので、エコノミークラス症候群は、ただ単に狭いところにいるっていうのとは違うと思います。

RLスタッフ:気圧の変化により乾燥状態になり、水分摂取が必要なのですね。

渡辺先生:我々の身体の細胞は水が多いので、乾燥地帯や飛行機の中では水分が引き出されていくわけです。そうして出ていく水分っていうのは相当な量です。もちろん尿として出ていくこともありますが、大体半分くらいが皮膚からの蒸散です。ですから、そういうところを化粧品やウェアなどで保湿ケアすることが非常に重要になってきます。

渡辺先生:そして最後にですが、長時間同じ場所にいたり、同じ姿勢でいるなど、何もしないと人間は飽きてきます。疲れの要素には2つあって、動くとか、姿勢保持とか身体を使うから疲れるということと、使わないことで飽きてきて疲れること、つまり何もしていないために疲れてくるということがあります。

RLスタッフ:何もしないことが疲れると言うのは、逆に考えていました。確かに長い時間に時間を潰すことができないのはストレスも溜まりますし。先ほど先生から新幹線での姿勢保持のお話があったんですけど、人間に適していないスピードなどの基準はあるのですか。

渡辺先生:まず自分自身で動くのであれば、コンディションとして良いのは歩行やジョギングぐらいだと思います。また車などは、適正スピードというのはあると思いますが、シートベルトやシート形状などの姿勢保持の道具が整っているか、使用するかでも大きく違います。先ほどの新幹線ですけど、実際乗車している時にはシートベルトしてませんよね? 乗客の全員にシートベルトをさせるのが大変だということもあるので、シートベルトはありませんが、シートベルトは姿勢を保つ、体重を寄せられることがあるので、疲れには非常に効いている気がします。

RLスタッフ:私の感覚でも、確かに新幹線で座っているだけなのに、すごい疲れて帰ってきたなっていう感覚があります。

Profile

【渡辺恭良プロフィール】

理化学研究所生命機能科学研究センター・チームリーダー
大阪市立大学 名誉教授
大阪公立大学健康科学イノベーションセンター・顧問
一般社団法人日本疲労学会理事長
一般社団法人日本リカバリー協会会長

京都大学医学部卒、京都大学大学院医学系研究科修了(医学博士)、大阪バイオサイエンス研究所・研究部長、大阪市立大学大学院医学研究科・教授、同健康科学イノベーションセンター・所長、理化学研究所分子イメージング科学研究センター・同ライフサイエンス技術基盤センター・双方のセンター長、理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックスプログラム・プログラムディレクターを経て、現職。ベルツ賞、文部科学大臣表彰科学技術賞など受賞。

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